サングラス越しの世界

色付きの世界を綴る日々の雑文集

【紀行雑記1-2 ネイプルスイエロー、色と音の哲学】

"太陽の道"と呼ばれるその道は第二次大戦下でムッソリーニがドイツのアウトバーンを真似て作らせたという話を聞く。その長い長い道を左側に太陽を睨みながらひた走る。空気は乾燥し、大地は緩やかな勾配を作りながらどこまでも伸びている。遠くの山嶺には教会の屋根が見え、朝日をいっぱいに浴びている。

 

ローマの外れからナポリを目指してひたすら南下する。山々は少しずつ平地へと変わり、平地は少しずつ海の香りを讃える。

ナポリの新市街の高層ビル群が見え、対照的な旧市街の歴史建築が見える。建築様式や材質の違いはその街が永い間、人と共に生き、人に愛され続けていることを物語る。また振り放け見ればヴェスヴィオ火山が見え、その下に埋もれたポンペイの街を彷彿とする爆発の後が見える。ナポリの乾いた潮風は何千年もの営みを常に眺め続けてきたのだろうか。

 

 

カプリ島ナポリから船で50分ほどの沖合にあるひょうたん型の小さな島である。

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船を降りるとたくさんの"色"が私を出迎えた。

 いくつもの真っ白なボートがエメラルドグリーンの海面に浮かび、浅瀬の波に揺れる。岸壁に立つ木々はいよいよ青く、海を臨む家々は赤や緑で、晴天に映える。

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ネイプルスイエロー。

 

ナポリの伝統色として知られるその色は、強く目を引く黄色である。

 

街を歩けば"音"を聴く。

海に面した広い道には溢れるほどの陽気な会話が飛び交い、側のリストランテではフォークとナイフが踊る。風は心地よく、道行く人々は口笛や鼻歌を歌う。

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哲学者ヴィトゲンシュタインは自著、論理哲学論考の中で"色空間"について述べている。空間はいたるところ"色"に支配され、色のない空間はない。またそれは"音"についても同様である。

刺激的な色と軽やかな音は空間の中で連続性と調和を保ちつつ巧妙に絡み合い、この島を形作っている。その曼荼羅のような空間の中で人々は生き、それ自体すら色音空間の一端を担うのだろうと想像される。この小さな島は、色と音の哲学の上に成り立つのかもしれない。

 

 

一瞬訪れた凪のあと、少し強い風がどこかへ色と音を運んでいった。